歯科専門雑誌『アポロニア21』編集長による コラム

Vol.07 「賢い患者さん」とは何だろう

今でも、稀に使われることがありますが、歯科医師の間で「デンタルIQ」という言葉が用いられた時代があります。もともとアメリカ発祥の言葉で、セルフケアを指示通りに励行する、治療に当たっては歯の価値を認めて、積極的に自費診療を受け入れるという人を「デンタルIQが高い」などと言うものです。これらは、誤解を恐れずに言えば、「歯科医師にとって都合の良い患者さんかどうか」を指標にしているに過ぎませんから、現在では、常識的な歯科医師は、まず使いません。

その一方で、現在の歯科医療現場では、形を変えて「賢い患者さん」を待ち望んでいます。それは、高頻度で来院し、高い治療費を払う「デンタルIQ」の高い患者さんではありません。ひと言で言えば「『お任せします』と言わない」タイプの患者さんです。自分の歯や口の健康維持と治療を、自分のこととして考え、発言する患者さんを、今、歯科医療現場は真剣に必要としているのです。この背景には、歯科医療のあり方が、他の医療サービス同様に、患者参加型に変化してきている事実があります。特に歯科は、歯の色調など、患者さんが抱える悩み事の多様性が強く、患者さん自身が選択しなければならない領域が広い特徴があります。歯科、特に修復補綴(詰め物や入れ歯など)やホワイトニングなどでは、「○○しなければならない」という局面は存在しません。原則的に、患者さん自身が、自分の意志で選択すべきものなのです。さまざまな歯科医師に会う中で、若手歯科医師を中心に「患者さんが、以前に治療された場所や内容について全く記憶していない」という悩みを聞くようになりました。良心的な歯科医師であろうとすればするほど、患者さん自身が自分の状態を認識して、治療方法なども自分で選んで欲しいと考えているのです。しばしば驚かれるのですが、歯科治療の治療計画の中には、かなりの部分で「放置→経過観察」という選択肢もありえます。痛みの元となる病巣(う蝕象牙質や歯槽骨吸収部位など)を除去した後は、例えば整形外科の治療後に義足を使うか、松葉杖を使うかといった選択に似た、患者さん自身の選択が必須の領域となります。白い材料を使うか、金属にするか、入れ歯にするか、インプラントを使うかなど、基本的には全て患者さんが決めるべきことなのです。そのような意識なくして「お任せします」という間柄で治療がなされた場合、「こんなはずではなかった」などトラブルの原因ともなります。

もちろん、多くの歯科医師は、その選択に必要な情報を提供しますが、患者さん側から聞かれなければ伝えられないことも大きいものです。ですから、できるだけ積極的に質問してほしい。これが、最近の歯科医療現場からの切実な声のようです。

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